日経産業新聞 2000.10.18

全方位撮影可能なセンサー  −ITS向けに新会社−

規制緩和を背景にしたベンチャー企業と国立大学による新しい連携モデルが誕生する。IC(集積回路)カード設計の日本LSIカードと、航空械部品加工のシステクアカザワ(大阪市、赤沢洋平社長)が共同で高度道路交通システム(ITS)向け部品を実用化する新会社を設立、特許を持つ和歌山大学教官が代表取締役に就任する。18日に正式発足する。今春から国立大学教官が民間企業役員を兼務できるようになった新制度を活用した。今後、様々な分野のベンチャー企業に同様の動きが広がる見通しだ。

国立大教官と実用化

新会社の社名はヴイストン(大阪市、大和信夫社長)。資本金は1200万円で、出資比率は日本LSIカードグループと同社の大木信二社長が67%、システクアカザワの赤沢社長が17%、新社長の大和社長が8%など。360度の全方位を撮影できる映像センサーをITSに利用する事業の展開を目指しており、試作品の出荷を始めた。

和歌山大学システム工学部でロボット工学が専門の石黒浩助教授(36)らがセンサーを開発、同助教授がヴイストンの代表取締役に就任する。

センサーは透明な筒体に収まった凸面鏡、筒体内で発生する光の乱反射を防ぐ針状の棒、小型CCD(電荷結合素子)カメラで構成する。CCDが撮影する画像を乱す内面の乱反射を針が遮断し、鮮明な映像を得る。7月に特許が成立した。複数のカメラを円周に沿って並べる従来の方法に比べ精度の高い映像を得られるという。

センサーをITSドライブレコーダー向けに実用化する。交差点で事故を起こした場合、360度の全視野角を撮影でき、原因の特定が容易になる。自動車メーカーや損害保険などへ採用を働きかける。日本LSIカードが事業化計画、システクアカザワが量産の際のコスト計算などを担当する。試作品は開発者向けの評価キットで39800円。

石黒助教授は「大学の技術が産業界でどう生かされるか学びたい。大学での今後の研究にも生かせる」と話す。

国立大学の教官が企業の役員を兼務することは公益性の観点から国家公務員法の規定で事実上禁止され、これまでは技術指導や「顧問」などに限定していた。

しかし大学の休眠特許を産業界で実業化、起業を促す必要性から規制が緩和された。教官も役員でかかわることで報酬面なので従来以上の見返りが期待できる。


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