日本工業新聞 2001.10.10

新しい領域を開拓

和歌山大学システム工学部

和歌山大学システム工学部は大阪府と境を接する和泉山脈の南麓に95年10月に創設以来、はやくも阪和地域の研究拠点として先導的な役割を果たし、わが国の産業界に大きな貢献をしている。文部科学省が打ち出した国立大学の再編・統合・縮小化の方針に対しても、地域社会に根ざし、地域社会とともに栄えることを目的に産学官交流懇談会を設置するなど積極的な活動を続け、確固たる存在感を示している。来年四月には待望のシステム工学研究科博士課程が設置されるなど発展めざましい和歌山大学システム工学部の現状を各学科の先生に紹介してもらった。

情報通信システム学科

次世代情報基盤を研究

バーチャルリアリティー・セキュリティーに応用

情報通信システム学科では、通信ネットワーク、情報処理システム、知能情報処理の三つの分野を柱に、次世代情報基盤(次世代インターネット)の実現をめざした研究・教育を行っている。次世代情報基盤における課題の一つに、実世界とコンピューターネットワークをいかに結びつけるかという問題がある。

インターネットやマルチメディア技術の発展は、人間の生活様式を大きく変えた。しかしながら、インターネットはさまざまな仮想世界を作り出したものの実世界とはいまだ密に結合していない。

このようなインターネット上にテレビカメラやマイクロホンなどどのセンサーを多数取り付ければ、実世界の情報を瞬時にネットワークに配信できる。次世代のインターネットを実現することができる。

このような次世代情報基盤プロトタイプとして、知能情報処理講座(石黒教授)では、三百六十度の方向を瞬時に見渡すことができる小型全方位カメラからなる分散視野システムを開発している。

このシステムは、部屋や街角に多数配置されたカメラからの映像をネットワーク上の複数のコンピューターで実時間で解析することにより、歩いている人間を追跡したり、その身ぶり手ぶりの認識を行うことができる。写真は複数の小型方位カメラからなるシステムの外観を示す。

このシステム開発の技術的ポイントは次の四つである。@多数のカメラの自動的な位置決めA多数のカメラで特定の対象物を選択的に注目する技術B多数のカメラを用いた移動物体の実時間追跡C対象をさまざまの方向から見て作成したモデルに基づく、実時間での身ぶり手ぶりの認識、部屋や街に設置された多数のカメラは、このような人間行動の認識だけでなく、ほかにもさまざまなアプリケーションを実現する。

多数の全方位カメラからの映像を画像処理によって実時間でつなぎ合わせれば、画像を元にしたリアリティーの高い仮想空間を実現することができる。

また、携帯端末に小型全方位カメラを取り付けて、部屋や街に設置された全方位カメラの映像と比較すれば、携帯端末の正確な位置を知ることができる。すなはち、多数のカメラを用いたシステムは、このような比較的実用に近い技術から、先に述べた人間の認識技術、さらには、より知的な情報処理技術と多くの可能性と研究課題を持っている。


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