特集1 大学・研究機開発ベンチャー企業―電気・電子を中心にー

ヴイストン株式会社 代表取締役 大和 信夫 信夫

1台のカメラに簡単な構造のアタッチメントを付けるだけで、ぐるり360度の映像を得ることができる全方位センサ。知能ロボット開発の研究者で、人間との対話をめざしたロボット「ロボビー」(ATR知能映像研究所)の開発にも携わる和歌山大学システム工学部の石黒浩教授(昭和39年生まれ37歳)がロボットの周辺視覚認識の目的で研究開発を行ってきた。

 規制緩和を背景に2000年4月、国立大学教官の役員兼業解禁を機に、全方位センサの可能性に着目した中小企業数社がベンチャー企業として産学連携の新会社設立を石黒教授に提案。石黒教授は「大学の技術が産業界でどう生かされるか学びたい。大学での今後の研究にも生かせる」と会社設立を承諾。

 社長の大和 信夫(昭和38年生まれ38歳)は、防衛大学校理工学部・電気課卒業後陸上自衛隊、産業用プラントメーカー、不動産仲介会社を経て1999年6月から独立企業のためビジネスプランの検討やマーケティング調査を行っていた。2000年4月、大阪市都市型産業振興センター・島屋ビジネスインキュベーターが設立10周年の記念行事として開催した「アメリカ東海岸企業視察旅行」でIC(集積回路)カード設計の日本LSIカードの大木信二前社長(故人)、航空機械部品精密加工のシステクアカザワの赤澤社長と出会う。帰国後全方位センサの事業化を目指す新会社設立の協力打診を受け、また全方位ミラーの製作を先行し手がけていたアコウル西原所長の協力を得て起業準備を行った。

 事業成功のカギを握る全方位センサの特性を熟知したシステム開発者には、石黒教授が大阪大学在籍中のかつての教え子であり、ATRでロボビーの中心的開発を担っていた前田武志が当たることになった。ロボビーには周辺視覚認識のため全方位センサが利用されている。こうして2000年8月4日ヴイストン株式会社が誕生した。

現在社員は、大和と前田の常勤2名、協力企業からの出向社員1名とアルバイト1人の計4名。石黒教授は2000年12月に取締役に就任。毎週1回定例会議に参加している。

 設立当初の資本金は日本LSIカードグループと同社の大木信二前社長が67%、システクアカザワの赤澤社長が17%、現社長の大和、アコウルの西原社長が各8%の1200万円。2001年1月に1000万円を増資、3月には、ベンチューキャピタルから投資を受け、現在の資本金は4200万円。 

全方位センサのITSへの利用を事業展開の中心に据え、昨年秋から全方位センサ試作検討品の出荷を行い利用の可能性を探ってきた。今年はじめからは、試作検討品を元に寄せられた全方位センサを利用したアプリケーション開発に着手、検査用途に使用する内視鏡やネットワークカメラ、全方位センサを複数用いて動体追跡を行う視覚センサネットワークシステムや全方位センサの撮像技術を映像の投影方法に応用したグローブスクリーン、全方位ディスプレイ等の研究開発も行っている。2001年2月には、ビジネスプランが評価され大阪市が主催するベンチャービズネスコンペ大阪2000で産学連携推進賞を受賞した。

 ベンチャーキャピタルからの投資を受けられたことで、研究開発のスピードアップを図るとともに、全方位センサ関連の特許出願も順調に進んでいる。2001年8月現在、全方位センサ関連の特許出願数は10件を超えた。

 今後はこれまでの研究成果をより具体的な利用用途に合わせた商品開発を行うことが課題。研究開発型起業でありながら、単にアイデアや技術を売り物にする企業ではなく、あくまでもモノ作りにこだわる企業として成長していきたい。そのため各分野でパートナー企業を探し共同研究・共同開発を推進していきたいと考えている。


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INTER LAB 2001.11