日経テクノフロンティア No.164 2001.7.23

ハイテクベンチャー新時代1

ヴイストン

画像の周囲が歪まない広角カメラを開発

ロボット研究者の基本技術を活用

1年前に産声を上げたばかりのヴイストン(大阪市、大和 信夫社長)が、広角撮影しても画像の周囲が歪まない新型カメラを開発し実用化に乗り出している、防犯用監視カメラやアミューズメント機器のほか、自動車の周囲を見たり記録したりできる将来のドライブレコーダーなどにも需要を開拓していく。大学のロボット研究者の基本技術に基づいた事業展開で、産学連携の成功例として大きく発展する可能性を秘めている。

  (稲田 成行 研究員)

{全方位センサーカメラの構造を簡素に}

同社では2000年8月に設立。資本金は4200万円で、常勤は大和社長(写真1、38歳)を含めて2人だけだ。大阪市などが設立した財団法人大阪市都市型産業振興センターのベンチャー支援施設「島屋ビジネス・インキュベーター」(大阪市此花区)に入居する。IC(集積回路)カード設計の日本エルエスアイカードと航空機部品加工のシステクアカザワ(大阪市、赤沢洋平社長)、フューチャーベンチャーキャピタル(京都市)などの出資を受けた。多くの出資者を獲得したきっかけとなったのは全方位センサーカメラの開発成功だ。1台のカメラに簡素な付属機器を装着しただけで360度のパノラマ映像を撮影できた。和歌山大学の石黒浩教授が開発した成果で、展示会に出展したところ、大阪市内の複数の企業が注目して資金がたちまち集まった。大和氏は別件のビジネスプランを秘めて日本エルエスアイカードの大木信二社長(当時)に相談を持ちかけたところ、全方位センサーカメラの事業化に取組んではどうかと説き伏せられ、社長に就任した。

石黒教授は知能ロボットの研究者で、ロボットの視覚研究の一環として独自の全方位センサーを編み出した。大阪大学助手、京都大学助教授などを経て2001年春、37歳の若さで和歌山大学の教授になった。ヴイストンの取締役に就いて経営にも参画している。

全方位センサーカメラは向かい合わせに配置した凸面鏡とCCD(電荷結合素子)カメラの間に細長い棒を1本取り付けるのが特徴だ(写真2)。ただの細長い棒だが、これが石教授が保有する特許になっている。従来は鏡が汚れるのを防ぐために側面を覆う透明な筒の内面で光が反射するのが原因で、実際には存在しない偽の像が画像中に紛れ込むことがあった。写真3は全方位センサーカメラで撮影した画像の実例。偽の像が映っていないことが分かる。棒1本のすばらしいアイデアはカメラの構造の簡素化にも役立ち、小型化や低コストにも適しているという。

{撮影画像の歪みをなくす}

同社は広角撮影しても画像が歪まない自由曲面カメラも開発した(写真4)。従来の広角カメラは魚眼レンズなどの光学レンズを採用し、撮影した画像の周辺部が歪むのが避けられなかった。新型カメラは反射鏡を採用し、その鏡面を自由曲面に仕上げることによって、歪みのない画像を撮影できるようにした。例えば、部屋の天井の中央部にカメラを設置した場合、従来カメラの撮影画像では壁に近い場所に置かれた机や本棚などの直線部は曲がってしまうが、新型カメラの撮影では直線部直線のまま。人間の目見え方に近く、違和感が少ない(写真5)。

光学レンズを使用するカメラでも、画像処理技術を活用すれば、歪みを補正して自然な見え方に調整することは可能だ。ただ、画像処理装置が故障した際に保守・点検をする体制が防犯業界にはまだ整っていないため、ビジネス上では画像処理を必要としない方が利用者にとっては使いやすい。同社ではこう判断し、カメラメーカーや防犯システムメーカーと新カメラ生産の折衝を進めている。

{中核技術は自前で保有}

ヴイストンは2001年9月期の決算で新型カメラと画像処理システム開発などで約4000万円の売り上げを見込んでいる。同社は研究開発型のベンチャーと言えるが、独自の技術を開発して獲得した特許のロイヤルティーを主な収入源にしようとは考えていない。「ゆくゆくは鏡面メーカーになることを目指したい」とモノを売って稼ぐ姿勢を大和社長は強調する。「モノづくりの現場が分からないと、市場に近い製品のアイデアが浮かばない」という信念に基づき、曲面を中核技術に据えて事業を展開していく構えだ。

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