日刊工業新聞2001.9.6

国立大・独立行政法人研究者

広がる役員兼業

ニーズ探る

「本当に役立つ技術は現実世界で評価されるべきで、まだ産業界から自分の研究分野の受ける影響を知りたい」と話すのは、和歌山大学システム工学部の石黒浩教授。2000年8月に設立されたベンチャー企業のヴイストン(大阪市此花区島屋4−2−7、06−6467−6601)に取締役として経営参画した。

360度のパノラマ映像を1台のカメラで撮影することができる全方位センサー。石黒教授が発明した技術だ。同社はこの技術をアプリケーション開発、システム開発を行っている。

「全方位画像は従来、カメラレンズの手前に球体や双曲面の鏡を取りつけて撮影されているが、画像が歪んでしまう問題点がある。全方位センサーは進歩した高解像度カメラの使用と高速コンピュータによって問題点を解決した」(石黒教授)。

鮮明な全方位画像が撮影できれば、その応用範囲も広い。ただ実用化するには「産業界でどのようにニーズがあるかを知り、そのためにどのような技術を適用すべきかを考える必要がある」(同)ため、大学外のパートナーと連携した。

熱心な誘い

ヴイストンは産学官の連携で誕生した。大和社長をはじめ大木信二氏(日本エルエスアイカード社長)、赤沢洋平氏(システクアカザワ社長)らは、大阪市都市型産業振興センターが運営している異業種交流の場を通じて会社設立の事業計画を繰り上げた。

石黒教授には教授自身が知的財産なので、開発に参画してもらうのが最も望ましい形であるとして役員就任を要請した。「以前から共同特許出願や共同研究を通じて付き合ってきた会社から熱心な新会社設立の誘いを受けた。自分の技術を現実世界で評価したいという思いなどもあり、要請を受けた」(同)。

同社は現在、画像処理システムと基本的なソフトウエアを公開して、実用化アイデアを募集している。具体的には開発中のシステムは道路交通システムで、交通事故の把握と急報を行う。自動車の周囲360度の動画像を記録する装置で、事故の状況や原因を的確に把握することができ、トラブルが生じやすい保険などの事故処理がスムーズにできる。事故が発生した時に自動的に位置と状況を情報センターに通報し、状況に応じて警察、消防に救援を依頼することができる。

専用ソフト開発へ

「全方位センサーを用いた実用システムはまだ完全なものではない。従って応用対象を慎重に選び、専用のソフトウエアを開発する必要がある。例えば街に全方位センサーを設置して、インターネットを介して好みの方向を見ることができる新しいインターネットカメラでは、実用化するにはカメラの性能などのさまざまな課題が残っている」(同)

それでも「自らがかかわる会社が大学からの技術移転の拠点となり、さまざまな会社と連携しながら会社自らが実用技術の核となって、新しいマーケットをつくっていくことを目指している」(同)と、多様な企業を大学の技術で結びつける新しい産学連携の一つの枠組みとなることを願っている。


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